野村克也氏は高校野球の監督として母校を甲子園に連れていくのが野球人としての目標だったそうです。
豆知識として野村氏の母校は、京都府立峰山高校です。1954年に南海ホークスに入団した野村氏はプロで3年間しっかり野球を勉強して、その後、母校に帰って野球部の監督になるつもりでした。「そんなことが可能なの?」と思うかもしれませんが、当時は元プロ野球選手が高校野球に携わることに関して、何の制約もなかったのです。しかしその数年後にプロ球界とアマチュア球界との間にトラブルが起きて、プロ野球出身者が高校野球の監督になる道が閉ざされてしまいました。
プロ球界とアマチュア球界との規制は2013年に大幅に緩和されました。元プロ野球選手は教員としての経験がなくても、高校野球の監督になることができるようになったのです。ただしプロ側が開催する研修とアマチュア側が開催する研修の両方を受講し、審査に通過しなければならないという条件があります。2019年にイチローさんが研修を受講したときは、大きな話題になりました。
高校球児への指導は、野球のことよりも野球以前のことのほうが多い、とよくいわれます。そのため研修では、野球に取り組む姿勢についての講義はもちろん行われますが、球児たちの生活態度や人間形成についての指導に関する講義も行われるのです。高校野球に携わるプロ野球出身者は、野球は教育の一環であることを肝に銘じなければなりません。それくらい高校生への指導は難しく気高いものなのです。なかには「いい再就職先ができた」と言って高校野球の監督になる人もいますが、どんなに有名な元プロ野球選手であっても、技術の指導以上に人間形成の重要性を自らに言い聞かせながら高校球児の前に立つ必要があります。